なぜ急にラナンキュラスを植えたくなったのだ、と同居人は言った

数日前、何の脈絡もなく、唐突にラナンキュラスを植えたくなったので、Twitterでそのように呟いた。

するとそれを見た同居人に、

「なぜ急にラナンキュラスを植えたくなったのだ?」

と低い声で訊かれた。
同居人は普段たおやかな女性だが、ときどき口調が武士になる。
武士になる時は、彼女の中で「なんかちょっと変だな」と思うことがある時(らしい)ので、「何で?」と質問に質問で返してしまった。

「今、私、ラナンキュラス描いてたんだけど…」

同居人は少女漫画家なので、背景や小道具などでラナンキュラスを描いていたらしい。
仕事はお互いの部屋にこもっているので、当然ながら相手が今どんな作業をしているのか、お互い何も知らない。

そして私は特別にラナンキュラスが好きなわけでも何でもなく、どちらかといえば朝顔やあじさい、桜など素朴な花が好みで今まで育てていたんだけど、その時は急に、本当に何の脈絡もなく、

「ラナンキュラスを育ててみたい…!」

と強い衝動が込み上げてきて不思議だった。
そうか、同居人のせいか。

私と同居人の頭はときどき謎の電波が飛び交って、どちらかが考えていたことがもう一方の思考に影響を及ぼすことがある。
などと書くと大変胡散臭いですね。
ユングがいうところのシンクロニシティってやつですかね。

ちょっと前にも、私が家の中で急に「砂の岬」を高らかに歌い出した時、

「なぜ今、砂の岬を歌った…!?」

と武士に訊かれて驚いた。
ちょうど彼女が「砂の岬を聴きたいな」と思っていたタイミングだったらしい。
私はTHE BOOMのカバーで大好きな曲だけど、マイナーな曲だと思っていたので(有名だったらすみません)同居人もこの歌を知っているとすら思っておらず、驚いた。

こういうことが、一緒に暮らすようになる以前からたびたび起こっている。
たとえばどちらかが急に「オムライス食べたい…!」と思って「食べに行かない?」と連絡すると、もう一方もオムライスを食べたいと思っていたことがわかったり。
ちなみに私はオムライスが苦手で、自発的に食べたいと思う要素がない。
片方にまったく興味のない事柄で、一切それについて相手と語り合ったことのないものであっても、急に頭の中に浮かぶので、おもしろい。
(なお苦手なので、一緒にごはんを食べに行くことになっても、別にオムライスは注文しない)

同じ家に住んでいるなら、たとえばテレビや雑誌でラーメンの紹介を見たとか、毎日同じものを食べているから同じタイミングでしょっぱいものが食べたくなるとか、あるかもしれない。
あるいはどちらかが部屋でかけている曲が耳に入って頭に残るとか。

でもルームシェア以前から起きるので不思議である。
どちらかが強く何かを思った時、その思考が離れた場所にいる相手に飛んで、「何の脈絡もなく○○について考える」という現象、そういえば昔は別の人ともときどき起こったので、よくあることなんだろうか。

人と一緒に暮らし始めるようになったら、前述したとおり「同じテレビを観ていて」とか、もしくは「何気ない会話に出てきて忘れていたけど」という流れで、同じものが食べたくなったり、見たくなったり、やりたくなったりということは増えてきて、しかもそれをすぐ実践することができて、「ルームシェア楽しいなあ」って思ったりするんだけど。
それとは全然違う調子で、「何で今、私が考えてることをそのまま口にしたのこの人、こわ…」みたいなことが起きるのも、それはそれで楽しい。怖いけど。

そんな感じで、相手の思考が自分に飛んでくるのが当たり前になっているので、
「急にカレーうどんが食べたくなったんだけど、あなたですか?」
「すみません、私です」
みたいな会話をすることがあるけど、傍で聞いたら本当に電波が飛び交っていると思われそうなので、気をつけよう。

エッセイ

Posted by eleki