・・・・・・・・杞梓高+1シスコン談義・・・・・・・・

萱野夏(以下夏)「俺たちに『お互いの「妹」について、シスコン同士熱く語って欲しいです。』だって。特に冬馬さんと悠樹」
萱野悠樹(以下悠樹)「は? 冬馬さんはともかく何で俺名指し?」
「……(笑)」
前堂尚紀(以下尚紀)「美園は世界一」
前堂篤(以下篤)「女の中では」
尚紀「は? おまえ目腐ってんじゃねえの? 美園は人類というか生き物というか宇宙にあるすべてのものの中で一番可愛くて一番すばらしい」
「……(半笑い)」
「瑞穂は、たしかにまあ妹なんだけど、うちの場合は三つ子だし、妹でありつつ姉でもある感じなんだよな」
尚紀「美園は妹っていうより天使。妖精。俺が産みたかった」
「う、産めるのか……?」
尚紀「おまえよりは産めると思う」
悠樹「(尚紀を指して)俺あんな埒外じゃない」
「俺に相槌を求められても困るよ」
悠樹「……っていうか俺はすげぇ微妙なんだけど、この状況」
「……なあ……」
尚紀「別にいいじゃん、思うようにシスコンとして語れば」
悠樹「いやシスコンっていうか……」
尚紀「この面子で今さら何を恥ずかしがってるのか理解できない」
「冬馬さんってこういう場になると性格変わりますよね」
「いや元々この人こんなだから。基本が人でなしだから」
「(ノーコメント)ええと何か収拾つかなくなりそうな予感なので、俺からネタを振ります。そうだなあたとえば、妹はどういう性格の子ですか? とか、無難に……できるだけ主観抜きで、具体性と共に」
尚紀「俺の美園は性格形成はまだどうこう言える段階じゃないかもしれない。絶対優しくて可愛い性格になる予定だけど」
「0歳児だもんな。まだちょっとちゃんとした人間じゃない感じがする」
尚紀「人間というより天使(うん)」
「それはもういいから」
「悠樹は?」
悠樹「性格……って、あんまり考えたことがなかったな。瑞穂もだけど、兄弟全体に関して『こういう奴』みたいのって」
「質問考えておいて何だけど、俺もそうかも。朝ちゃんと七ちゃんに関しては言えるけど、瑞穂と悠樹に対しては漠然と『こんな感じ』ってイメージはあるけど、いざ言葉にして端的に説明しようとすると、ちょっと難しい」
悠樹「『自己アピールしてください』って言われた時の困惑と似てる。距離が近すぎるのかも」
「なら『妹との思い出深いエピソード』とか? 俺は、かなり歳離れてるから最初あんま自分の妹って実感なかったんだけど、美園抱いた時にこっち信頼してる感じでぐったり凭れて眠ってるの見て、そこですげぇうわーっときて、これは守らないとなと思った」
尚紀「(頷き)指握られた時とか、俺の顔見て笑った時とか、尊くて泣きそうになる。こういう、無条件で自分との間に絶対的な信頼とか愛情とかが介在可能な関係があるってわかってびっくりした。生まれたばっかの時って裏切ったり疑ったり諦めたりすること知らなくて、結局人間ってわざわざそういうことを覚えるために生きてる効率の悪い生物なんだなとか考えたり」
「み、美園あやしながらそういうこと考えてたのかあんた」
悠樹「シスコン談義っていうか育児初体験夫婦みたいになってるんだけどあそこ(前堂兄弟指し)」
「まあ年齢的には娘でも不思議じゃないわけだしなあ」
悠樹「夏は、瑞穂との一番思い出深いエピソードは?」
「うーん、一杯あるからこれって絞るのは難しいような……そうだな、リトルリーグにいた頃、タッチの再放送やってただろ?」
悠樹「ああ、夏休みの午前中とかに」
「で、あれ見た瑞穂がやたら感動して、『あたしも南みたいな幼馴染みに『目指せ瑞穂ちゃん甲子園!』って応援してもらいたい!』って言ってたこととか。普通に考えたら俺と悠樹がタッちゃんとカッちゃんでおまえが南ちゃんじゃないのか、と」
悠樹「……」
「うん? 何で悠樹が目を逸らしてるんだよ?」
悠樹「……いやその時多分、俺と瑞穂で、『夏に言ってもらえばいいだろ』『ああそうか!』っていう会話をした記憶が蘇って」
「えっ、何で俺!?」
尚紀・篤「(あー…(笑)、って顔でふたりのこと見てる)」
悠樹「じゃあ俺が達也か和也かって話し合った時、和也は死んじゃうからその配役はやめようということで」
「だから何で俺が南なんだよ」
悠樹「その後俺が新田で、瑞穂が由加ごっことかして遊んでて、で七兄が達也で参加したりして」
「達也と新田で南を奪い合うのか」
尚紀「で、やっぱり奪い合われるのは萱野三男と」
「俺、どうせなるなら西村がいい」
悠樹「西村かよ」
「格好いいだろ、変化球投げられるところが」
尚紀「ブサイクな幼馴染みが北園……?」
悠樹「先輩だから殴りませんけど俺の前であれの話はしないでください」
「尚紀殴ったらもしこいつが悪くても多分とりあえず俺が殴り返す、悪い」
「待った話がずれてる、妹からずれてる、ごめん」
尚紀「(いろいろ気にせず)妹って、やっぱおまえらに混じって男の遊びとかしてたの?」
悠樹「まあ普通に、過酷な鬼ごっことか、虫取りとか、木登りとか」
「それでインターハイ出場の足腰が鍛えられたんだな(うん)」
尚紀「美園も何か習い事させた方がいいかな。0歳児でもスイミングとかあるし」
「美園が自分からやりたいって言うなら何でもやらせるべきだろうけど、物心つく前から強制したらむしろ芽を摘むことになるかもしれないと思う」
尚紀「乳幼児モデルとかにしたら、可愛すぎて誘拐されるかもしれないしな」
悠樹「(夏に向けて)やっぱりシスコンっていうか親バカになってるよな、あれ(前堂兄弟指し)」
尚紀「おまえらリトルリーグ入ってたのって、本人たちの意志?」
「ですね、上の兄ふたりがスポーツ少年団に入ってたから、そういうの見て」
「ああ、スポーツ一家なんだったっけな、萱野家。環境と血のなせるわざか」
尚紀「……どうか俺の美園は父さんの人のよさと賢さと母さんの優しさと強さと美人さを引き継いで、篤みたいにバカの血が受け継がれたり篤のバカに影響されたりしませんように……(両手組み合わせて祈ってる)」
「……まあ俺の尚紀への愛が受け継がれたりしたらきっと俺は美園に負けるから、俺に似なくていい」
悠樹「何か前堂さんって可哀想だな」
「シッ、聞こえたらもっと可哀想だろ」
尚紀「おまえらんとこの妹は、父似? 母似?」
「見た目は母さんかな?」
「ああ、じゃあ萱野家母はすっげー美人なんだ……(夏見つつ)」
悠樹「性格は父さん似か? 家の中で一番似てるかもな、すげぇ手の込んだいたずらすることに命かけたりするわけのわからなさとか」
「やるよな、コツコツせみの抜け殻100個くらい集めて部屋の壁中にくっつけて俺たちの反応隠れて見守ったりとか」
尚紀「え、妹なのにいたずらすんの?」
「しますよ、瑞穂は。父さんとか二番目の兄と共謀して、変なことしては母さんに叱られたり」
悠樹「高校の奴らは知らないんだろうな、瑞穂のあれを。真顔で突拍子もない嘘ついたりするの」
「微に入り細を穿って法螺を吹くよな。『マスオさんが浮気した回』の細かい脚本を考えて、さも見てきたように磯野家を演じ分けたりとか」
悠樹「内容に騙されて驚くってより、そんなにも意味のないことを全力でする瑞穂に驚かされる」
尚紀「でもどうせおまえら、それをちゃんと最後まで聞くんだろ?」
「まあ……」
悠樹「聞くよな、オチが気になるし」
「最終的に離婚して、タラちゃんが『僕は今日から磯野タラオですぅ』って近所の人に言ったのに『あら元からでしょう』って取り合ってもらえなかったとか」
悠樹「そこがオチかよ! 愛人にも捨てられ実家からも勘当されて磯野家の敷居をまたぐこともできずにひとり孤独に青森でりんご農家の住み込みを始めたマスオさんの今後はどうなるんだよ! っていうところが気になったまま終わったな」
「阿部は信じてたよな。っていうかそういえば最近そういう話になって、阿部がそんな回があったってまだ信じてたことに愕然とした」
悠樹「訂正してやらなかったのか?」
「(目逸らし)……阿部は瑞穂に夢見てるから、言い出しがたくて……」
尚紀「阿部って、幼馴染みとかだっけ?」
「そうです、小学生に上がってからの」
「やっぱ長い期間付き合いがあるったって、兄弟と友達じゃ見える部分が違うもんなのかな。阿部ってのは妹の嘘がわからなくて、おまえらにはわかるっていう」
悠樹「阿部は単にアホなんじゃないのか?」
「おまえそんな身も蓋もない」
悠樹「でも阿部だけでもないか。瑞穂は黙ってればしっかり者で、見た目も夏そっくりだし、そういう女があんまり変なことやるとは、大抵の人は思わないのかもな」
「そこで俺を引き合いに出すのか……」
尚紀「萱野三男は変なことしないのか?」
悠樹「意図的にはしないよな。結果は別として」
「えっ、無意識にはしてる?」
悠樹「キャベツ買って来いって言われたのにレタス買って来たり」
「そ、それは……単に、それこそ抜けてるだけで……」
悠樹「料理手伝うよお母さん、って言って、レタスの千切り造り終えてから『なあ、これ、もしかしたらキャベツじゃないかもしれないぞ』って深刻な顔して俺に相談に来たり」
「(顔赤らめつつ)その間瑞穂は一部始終を見てたくせに、教えてくれなかったんだよな。一緒に買い物言った時点で気づいてたらしいのに」
悠樹「あいつはそういう奴だ」
尚紀「でも萱野四男は、そういう妹が好きと」
「(あーあ、言っちゃった、って顔)」
悠樹「好きですよ、好きで悪いですか(仏頂面)」
尚紀「俺にそれを聞くのは間違ってると思う(真顔)」
「(何かいたたまれなくなってきた)」
「まあ別にいいだろ、結果として本人たちが倖せなら、それが一番」
「(うんうん)」
尚紀「そう。俺だって妹と結婚するかもしれないし。でもそれで俺の美園が幸福になれるなら、その他の障害なんて障害のうちにも入らない」
「(よろっと)お、おまえは、俺が一生懸命まとめたのに……」
尚紀「(面倒臭そうに)じゃあ別に『美園』のとこを『篤』に変えたっていいよ」
「……いろんな意味で泣きたくなってきた(顔覆う)」
「よかったですね、前堂さん(心から)」
悠樹「ここでそういう感想なんだ……(夏見つつ、感心)」
尚紀「まあこんなもんでいいだろ、美園が寂しがるから俺は帰る」
「(よろよろしながら)俺も行く……」
「(去ってくふたりを見送りつつ)俺たちも帰るか」
悠樹「だな……(何か疲れてる)」

――終幕しました――

 



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