こころなんてしりもしないで・第5話

 土曜日、日曜日と、いつもより楽な気分で過ごすことができた。月曜日になればまた秋口の姿を見ることができると思ったら、少し倖せな気分になる。
 金曜のトラブルのことを思い返せば、あっという間に暗い気分になることもできたが。
(まあ、気長に行こう……)
 秋口は佐山の行動が自分より遅いと軽く見ていて、仕事ぶりにも不安を抱いていたようだ。
 そういう自分にフォローされたことが秋口の癇に障ったのだろうが、金曜日のことは、むしろ自分も人並みに仕事ができるのだとわかってもらえる切っ掛けになるんじゃないか――と佐山はできるだけ前向きに考えるようにした。
 月曜日、会社の最寄り駅で御幸と行き会わせた。佐山はひとり暮らし、御幸は実家住まいで、沿線は同じだが方向が違う。フレックスを使ったり、出社前に得意先回りをする時以外だと、駅で顔を合わせることもある。
 挨拶を交わして、佐山は御幸と並んで歩き始めた。
 金曜日の晩にあんな話をした次の顔合わせなので、佐山には何となく照れ臭い。
「俺、思ったんだけど。佐山とコイバナなんかしたの、初めてだよな」
 御幸の方も同じことを思い出していたのか、真っ先にそんな話題を振ってきた。
「何だよ、朝から……そうか?」
「そうだよ、雛川さんの時も、悩みとか気持ちに関する相談って聞かなかったし」
「御幸もそういう話、してくれないしな」
「俺は単純に相手がいないの」
 佐山は少々疑わしそうに御幸を見遣った。
「信じられないんだよな、俺。御幸に恋人がいないっていうの」
「佐山に嘘なんてつきませんって。モテないんだよ、俺」
「平気な顔で嘘つくなよ」
「俺の好みのタイプに」
「ああ……」
 それは何となく、佐山にもわかった。御幸は容姿が派手だから、群がってくるのはやはりきらびやかな女性が多いが、そういう相手が彼が得意じゃないのは知っている。
「家庭的な子が好きなんだけど、きょうびそうそう出会わないだろ。『遊びでいいから抱いてください!』とか言われると、萎えるんだよ。気持ちも体も」
「言われてみたいよ、そんなこと」
 佐山は御幸の脇腹に拳をねじ込んでやった。
「佐山は間違っても、そんなこと言い出すなよ」
 拳を避けながら言った御幸に、佐山はつい吹き出してしまう。
「言うかよ、女の子じゃないんだから」
 もう一度御幸の腹に拳を押しつけ、佐山は彼と並んで歩いていった。
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