こころなんてしりもしないで・第8話

 医務室のソファは年季が入っていて、佐山が嫌がって身を捩るたびにぎしぎしとスプリングの軋む音がした。
 秋口は佐山の抵抗を力でねじ伏せ、今までになく荒っぽい動きでその体を探った。
 キスされて、首筋や肩に歯を立てられて、手でいかされた。秋口に今触れられるのはどうしても嫌だと思ったのに、ただ押さえつけられていたせいだけではなく、佐山は結局相手を振り解くほどの抵抗はできなかった。
 触れ合っている時は、余計なことを考えずに快楽を味わうと。
 そう自分で決めたことが、佐山を余計に混乱させた。気持ちいいと、感じながら、考えながら、別の場所で『どうしてこんなことになってしまったのか』と思っている。
 手で扱かれている途中、耳許で荒い吐息混じりに「あんたもやれよ」と命令口調で言われて、佐山はもうわけもわからず、条件反射みたいに秋口の昂ぶりに手を伸ばした。
 焦らされて焦らされて、恥も忘れて懇願しそうになった頃にやっと秋口の手に精を吐いて、我に返る間もなく立て続けにもう一度いかされた。
 秋口もはだけた佐山の体に射精して、佐山はソファに仰向けになったまま、呆然と、そんな秋口を見上げていた。
 どうせ眼鏡もないぼやけた視界のせいで、はっきりその顔も見えなかったけれど。
 荒い呼吸を繰り返したまま、佐山は会社のソファなんてところでみっともなく服をはだけられて、半分脚が床にずり落ちるような格好で、ただ呆然とした。
 終わった後は何も考えられなくなった。
 ひどく噛まれた肩口や、ねじ切られるかと思った胸の先がずきずきと痛む。今まで何度こんなことをしたって、佐山の意志を無視することもなく秋口が乱暴な仕種をすることはなかった。
「……秋口……」
 自分でも何を言うつもりかわからないまま、佐山は頼りなく掠れた声を洩らした。その呼びかけを聞いて、こちらも呆然とした様子で佐山の上にまだのしかかっていた秋口の体が、びくりと小さく揺れる。
「――」
 秋口がどんな顔をしていたのか、やっぱり佐山にはわからない。眼鏡はどこだ、と一瞬意識を逸らした時、秋口が起き上がり、乱れた服を直すと、何も言わずに佐山に背を向けた。
 一言もなく医務室を出た秋口のことを、佐山もやっぱり何も言うこともできず、黙って見送ってしまった。
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