こころなんてしりもしないで・第9話

 自分がどうしたかったのかとか、そんなものはとっくに見失っていた。
 以前に医務室で沙和子と一緒にいた佐山を見た時、理性が焼き切れて、無理矢理押さえつけてその体を愛撫した。
 あの時も、ひどいことをしたと後悔して、それでも佐山が許してくれたから――だから余計に、どうしたらいいのかわからなくなった。
(佐山さんのせいかよ)
 この期に及んで、まだ佐山に責任を押しつけたがっている自分に気づいて、秋口はますます惨めな気分になった。
(俺は、佐山さんにどうして欲しかったんだ?)
 御幸が去っていった休憩所で、ひとり座りながら秋口は考える。
(俺のこと好きだってわかって……それで、それ以上どうして欲しかったんだ?)
 どこで道を間違ってしまったのか、簡単なことな気がするのに、秋口には思いつかない。
 多分、ずっと好きでいて欲しかったのだ。佐山が自分のことを好きなのだと思えば、今までに感じたことがないくらい、本当は、嬉しかった。
(……俺のことだけ見て欲しかったんだ)
 だから沙和子といる佐山が、御幸といる佐山が、腹立たしかった。
 裏切られたと思った。
(自分では何もしなかったくせに)
 自分が好きだと言ったその口で、その体で、御幸のことも受け入れたのかと思うと、正気ではいられなくなりそうだった。本当はゆうべ、裸でいた佐山と御幸を見た時、ふたりとも殴り殺してやりたいくらいの気分になっていたのに。
 そうしなかったのは、どこかで逃げ道を捜していたからだ。
 必死になる自分が恥ずかしくて、口惜しかった。そんな取り乱したところを他人に見せたことなんて一度もない。
(そうだ、そんなことしたら)
 ――自分がまるで佐山のことを好きみたいだと思って、それがばれるのか怖かったのだ。
 今まで自分を取り合って、自分に捨てられて、縋ってくる女たちを醜いと思った。鬱陶しいし、邪魔だと思った。
 自分がそれと同列になるのが、どうしても許し難かった。
 佐山はたとえ自分が他の女と寝ていることを知ったって、取り乱さないことができた。そんな佐山に、自分から好きになって、自分のことだけを見るように願うのは負けることだと、そうどこかで感じていた。
 結局、自己保身だ。
(自分を守るために佐山さんのこと傷つけたのか、俺は)
 それでも佐山が許してくれるだろうと、どこかで甘えていたことに秋口はようやく気づく。
 それから、今でも佐山に許されたいと願っていることを。
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