こころなんてしりもしないで・第7話

社会人

(痛い) 鈍痛で目が覚めた。 ずきずきと、脈打つようにこめかみの辺りが痛んでいる。胃が重たくて、気持ち悪い。喉から胃液が逆流してきそうだ。 こんな感触には覚えがある。営業時代によく味わった、紛れもな…

こころなんてしりもしないで・第6話

社会人

 自分が佐山を誘い続けている限り、沙和子に言い寄るチャンスはない。 そう理由づけて、秋口は翌日も佐山に声をかけた。「ごめん、今日は残業してかないと」 昼休みに食堂で見かけた時に「帰りにまたどこかへ寄…

こころなんてしりもしないで・第5話

社会人

 土曜日、日曜日と、いつもより楽な気分で過ごすことができた。月曜日になればまた秋口の姿を見ることができると思ったら、少し倖せな気分になる。 金曜のトラブルのことを思い返せば、あっという間に暗い気分に…

こころなんてしりもしないで・第4話

社会人

「秋口、佐山との仕事、どうだ?」 自分の机で書類を書いていたら、青木がやってきてそう声を掛けてきた。「どうって、まあ、特に滞りもなくって感じですかね」 手を止め、青木を見上げて秋口は答えた。 青木は…

こころなんてしりもしないで・第3話

社会人

 たしかに秋口と組んで仕事をすることにはなったが、前任の青木とかなりの部分まで作業を終えていたたため、佐山が秋口と頻繁に打ち合わせなどで顔を合わせる必要はなかった。商品の設計に入る前ならもちろん仕様…

こころなんてしりもしないで・第2話

社会人

 総務部の雛川沙和子と言えば、同じ女子社員からすら憧れの眼差しで見られるマドンナだった。 今どきマドンナなどというふたつ名を誰もが平然と口にするくらい、彼女は本当に美人で上品で、大人の女の色香を漂わ…

こころなんてしりもしないで・第1話

社会人

恋心というものは、どうやら意識なんてしてもしなくても勝手に芽生えてしまうものらしい。 たとえそれが同性、これまで恋愛対象に入るなんて思ってもみなかった『男』だとしても。 たまたま相手が自分と同じ男だ…