狼は闇夜に潜む・その後

社会人

「ケイ、この本読み終わった!」「うっ」どすん、と元気よく背中に体当たりされて、廊下の雑巾がけをしていた広瀬は危うく顔から木製の床に倒れ込みそうになった。どうにか踏み留まれたのは、駆け寄ってぶつかった…

トラブルメイクでろくでなし-あとがき

社会人

 割と最近、本編というか「ロマンチストなろくでなし(新書館ディアプラス文庫)」が電子書籍かしたのもあって、完売して久しい商業誌番外同人誌からこのお話をデータ化してみました。 何もかも懐かしい。電書版…

トラブルメイクでろくでなし4話-2<完結>

社会人

 目が覚めた瞬間、体中にものすごい違和感と疲労感と軋むような痛みを感じて、和志は思わず呻き声を上げた。「うー……」 瞼を開こうとしたのに、うまくいかない。和志は片手で目許に触れてぎょっとした。 目の…

トラブルメイクでろくでなし4話-1

社会人

 気づいた時には、寝室のベッドで寝ていた。 うっすらと記憶がある。あの部屋から伊勢が連れ出してくれて、タクシーでマンションに戻ってきた。 自分はずっと伊勢に謝り続けて、大丈夫だからと伊勢が応え続けて…

トラブルメイクでろくでなし3話-3

社会人

 寧子が記録していた池袋の住所に、松島雅春という男はもう住んでいなかった。「大家さんに追い出されたのよ。何だかいっつもガラの悪そうな人たちが出入りしてるし、夜中中騒いでるし、あたしたちも迷惑してたの…

トラブルメイクでろくでなし3話-2

社会人

 眠くて、自分がいったいどこにいるのか、どんな格好をしているのか、よくわからなかった。 視界がぼんやりと霞みがかっている。体も頭も重たく、思考が空転する。(気持ち悪い……) 和志は冷たくて居心地悪い…

トラブルメイクでろくでなし3話-1

社会人

 何度携帯に電話をかけても、『電源が切られているか、電波の届かないところに――』というアナウンスが繰り返されるばかりだった。 和志が突然、『友人の家に泊まる』と伊勢にメールを寄越したのは一昨日の晩の…

トラブルメイクでろくでなし2話-2

社会人

「だからさー、いい加減メシ喰えって、なあ」 肩を少し乱暴に揺さぶられて、和志はぼんやりしたまま、膝に伏せていた顔を上げた。 心配そうな友人に、顔を覗き込まれていた。「昨日の昼から何も食べてないんだろ…

トラブルメイクでろくでなし2話-1

社会人

 休憩時間や仕事帰りに店を回ったり、カタログを眺めたりしながら過ごしていくうち、着々とクリスマスイブが近づいてきた。 イブまであと二日と迫った十二月二十二日、今日は遅番だったので、勤め先を出る頃には…

トラブルメイクでろくでなし1話-3

社会人

 伊勢へのプレゼントを選ぶために、和志は翌日の仕事帰りに店近くのデパートへ寄った。 あれこれ見て回ったものの、これというものも思いつかず、結局夕飯と夜食の材料だけ購入して家路につく。(鞄とか財布………

トラブルメイクでろくでなし1話-2

商業番外編

 矢野和志が伊勢千暁と同居――同棲を始めてから、かれこれ三ヵ月ほどが経った。 寧子が伊勢のことを好きだという「誤解」も解けて、伊勢とつき合うことになった時、さすがに和志も自分がこれ以上寧子のマンショ…

トラブルメイクでろくでなし1話-1

商業番外編

 街中が赤だの緑だの金色だので飾られて、きらきらし始めると、やたら気分が盛り上がるのは小さな頃からの癖だ。 ただし、その気分と同等の幸福が和志の許に訪れることなど、ほとんどなかったのだが。(クリスマ…

と、おまけ。/それはさすがにどうなのか

BL

「と、おまけ。」同人誌版の書き下ろしだった短篇です。「きまずいふたり」の後のお話になります。 「それはさすがにどうなのか」バレンタインデーの佐山と秋口の話。以前サイトで公開していたものです。今回は多…

きまずいふたり・第5話<完結>

BL

「どうしてそんな態度なんだか理解不能なんですよ」 横でぶつぶつと呟いている低い声に、御幸はもう相槌を打つ気も起きなくなっていた。「あの人何であんなに頑固なんだ、もうちょっとぼやーっとしてると思ったの…

きまずいふたり・第4話

BL

 唖然、という表現がもっともぴったりだっただろう。 佐山も、御幸も、そして秋口も、目と、すぐには言葉の出ない口を開いている。「あれ、どうかしました?」 唯一、縞の声だけが脳天気に響いていた。「あの……

きまずいふたり・第3話

BL

 エレベーターでばったり秋口と乗り合わせた。「あ」 先に秋口が乗っていたところに、佐山が後から乗り込む形だ。タイミングがいいのか悪いのか、他に乗客はいない。多分悪い方だ、と思いながら佐山はエレベータ…

きまずいふたり・第2話

BL

(そうだ、金下ろさないと) 忙しさにかまけていたら、財布の中身がすっかり寂しくなっていた。 珍しく、奇蹟的に定時に仕事を終えて会社を出た平日の夕方、佐山は自宅に戻る前に途中の駅で電車を降り、銀行に向…

きまずいふたり・第1話

BL

 七時に仕事が終わりますとメールが来たので、しばらくの間迷った挙句、やっと『了解』と短い返事を送り返す。 送信完了の表示を確認してから、佐山は携帯電話を折りたたむとデスクの上に置いた。今日も仕事は山…

こころなんてしりもしないで・第10話<完結>

社会人

 気持ちが落ち着くまで秋口と話すのをやめておこうと思ったら、一週間彼を無視しつづける羽目になった。 多分、話し合う状態じゃない。自分も秋口も。まともに話そうとすれば、自分は秋口を許してしまうだろうと…

こころなんてしりもしないで・第9話

社会人

 秋口が会社や外の女の子と会っている様子は、佐山にもすぐわかった。 もちろん秋口本人が佐山に宣言するわけではないけれど、もともと社内でも噂話の種にされることの多い彼のことだ。休憩所や食堂での女子社員…

こころなんてしりもしないで・第8話

社会人

 九月に入ると、佐山は三日間だけ夏休みを取った。御幸は土日と有給を利用してもっと長い休みを取るよう主張したが、仕事が詰まっていることを理由に、佐山は結局短い休みだけを手に入れた。 暦の上ではもう秋と…

こころなんてしりもしないで・第7話

社会人

(痛い) 鈍痛で目が覚めた。 ずきずきと、脈打つようにこめかみの辺りが痛んでいる。胃が重たくて、気持ち悪い。喉から胃液が逆流してきそうだ。 こんな感触には覚えがある。営業時代によく味わった、紛れもな…

こころなんてしりもしないで・第6話

社会人

 自分が佐山を誘い続けている限り、沙和子に言い寄るチャンスはない。 そう理由づけて、秋口は翌日も佐山に声をかけた。「ごめん、今日は残業してかないと」 昼休みに食堂で見かけた時に「帰りにまたどこかへ寄…