猫が個室に呼びに来る
そもそも猫を多頭飼いにしようと思ったのは、私も同居人も在宅で不規則な仕事ぶりなので、家にいるあいだ常に猫を構うということが不可能だったからです。
二匹いれば、一緒に遊んでさみしくないだろうし、取っ組み合いや追いかけっこで狩猟本能も満たせるのではという考え。
そのために廊下のある、部屋数の多い、3LDKの家を探したのだ。猫がそこそこ走り回れるように。
実際小サビたちはしょっちゅう大運動会を繰り広げているし、かと思えば二匹寄り添って毛繕いをしたり、仲がいいことこのうえない。
宇宙一かわいいなあ。
先代のサビ猫ケイティは、とにかく人間大好きというか、多分自分のことも人間だと思っていて、視界に人間がいないと大騒ぎした。
もともと同居人と単身者用のマンションに住んでいたから、大抵の時間は人間の姿が猫の視界に入っていた。
なのでちょっとでも人が見えなくなると、それが外出であろうとお風呂に入っている時であろうと、犬の遠吠えのようなすさまじい鳴き声を発した。
ルームシェアを始めてからは、ケイティにとっては急に部屋数が増えて、人間の姿が見えない時間が増えた。
私と同居人のそれぞれの個室+LDK+物置部屋とあって、ケイティは物置部屋以外は自由に出入りできるようにしていたから、寂しくなったら勝手にどちらかの個室に行くだろうと思っていた。
というか十年以上一緒に暮らしてきたのは同居人なので、まあ、同居人の部屋に居座ることの方が多いだろうなあと、嫉妬交じりに覚悟していた。
けど、何でか、ケイティは「人間が二人揃っている」状態じゃないと、ときどき気が狂ったように遠吠えした…。
だっこが好きな猫なので、たとえば私一人しか家にいない時でも、抱き上げて背中を叩きながら歩き回ると、満足して大人しくなる。
なので、眠りの深い同居人がぐっすり眠っている真夜中、ケイティの遠吠えで眠れない私が何十分も猫を抱えながら歩き続ける日々が続いた。
ケイティは最後まで甘ったれでめちゃくちゃかわいくて銀河系で一番かわいいサビ猫だったけど、しかし遠吠えが響くとご近所迷惑だし、人間も落ち着かない。
だから次に猫をお迎えする時は多頭で、と同居人の間で決めていて、苦難を乗り越えたあと、大変に仲のいいサビ姉妹が我が家にやってきたわけだけれども。
どうしてなんだろう、猫同士すごく仲がいいのに、人間が居間にいないとやっぱり文句が出る…。
部屋で仕事をしていると、猫たちが代わる代わるやってきて、にゃあにゃあ騒ぐ。
さくらは腕にしがみついて爪をたててぶら下がり、デイジーは膝をポンポンと二回叩いてじっとこちらを見上げてくる。
「おっ、だっこか?」と抱き上げようとすると、二匹ともパーッと部屋を逃げ出す。
何なんだ、と再びパソコンに向き合っていると、同じように、腕を引っ張ったり叩いたりと、アピールを繰り返す。
遊んでほしいのかなと思って、おもちゃをけしかけても、申し訳程度に付き合ってくれるだけで、もはや仔猫時代のように力尽きるまで走り回ったりジャンプしたりはしない。
何だ遊びたいわけじゃないのか、と部屋に戻ると、やっぱり、また二匹が交互に現れて騒ぐ。
ちなみに今はデイジーが仕事机の上に飛び乗って、こっちの気を惹こうとあちこちいたずらしている。
仔猫時代、騒ぐのはてっきり遊びたいからだろうと思って、あれこれおもちゃを買ってはけしかけていたけれど、あれは「おもちゃがあるからとりあえず遊んでいた」だけであって、本命の用件は、「人間を居間に連れてくること」だったらしい…。
とりあえず人間のどちらかが居間にいればそこそこ満足なようだけど、二人揃ってる方がよりのびのびしている。
かわいいんだけど、かわいいんだけど、仕事に集中したい時はほんと困るなあ。
困った挙げ句、休憩がてら居間のソファに座ってノートPCを膝に載せてこれを書いているんだけど、さくらが肘にしがみついてきて打ちづらいことこの上ない(リアルタイムの報告)。
困ったなあ、と思っていたら、同居人がおやつを食べに居間に現れて、そしたら二匹とも大人しくなったよ…(リアルタイム報告)。
私は割と猫に対してはクールな方で、べたべたに甘やかしたりなんて絶対してないんだけど、それでもこんなことになってしまうのはなぜなのだろう。
多頭飼いの方、よかったら人間に執着しない猫との暮らし方についてレクチャーしてください…。