秘密

 会いに行く、と短い手紙が来たのは夏の始まり頃。
 懐かしい文字が、差出人不明の手紙として渡された紙の上に見えて、途端に涙が止まらなくなった。
 たわいもないダイレクトメールに紛れさせる巧妙なやり方で、手紙や電話に全部チェックの入る環境の中、誰の手にも渡らずこれが自分の元まで辿り着いたのは奇蹟だと真実は思った。
 会いに行く、というたった五文字の短い言葉が、本当のことなのか希望の話なのか、わからなかったけれど、それからその葉書は真実にとって何にも代え難い宝物になった。
 本格的な夏が来て、それも過ぎ去り秋の気配が訪れても、葉書の言葉が本当になる気配はなかった。
 それでも真実は葉書を抽斗へと隠し、誰にも言えない秘密ごと大切にしまっておいた。

おうちのひみつ

Posted by eleki