久々に父がゾンビになる夢を見る

父はちょうど十年前に亡くなっている。
昔から病気がちで、何度も入院や手術を繰り返してきた人で、まああんまり長くは生きないんだろうなあと、子供心に思っていた。
私が高校生になるまでは持たないと誰かに言われて、「そうなのか」と鵜吞みにしていたけど、誰に言われたんだっけな。
(私か、それを私に吹き込んだ人の)想定よりは結構長生きして亡くなった父が、亡くなったあとしばらく、割と頻繁に私の夢に出てきた。

昔から「父親」が出てくる夢をそこそこ見るけれど、その「父親」はなぜかいつも実の父ではなく、夢の中でしか現れない誰だかわからん男の人だった。
だから実の父が夢に出てきたのは、亡くなってからが初めてだった気がする。

夢の中でも父は死んでいた。
死んだ状態で夢に現れた。
つまりゾンビだ。

最初に見た夢の中で、ゾンビの父と実家の近所で遭遇して、私は「困ったな」と思った。
だってもう、市役所に申請して、埋葬費をもらってしまった。

父が亡くなって初めて知ったんだけど、家族が死亡した際に市役所へ届け出をすると、埋葬費という名目で補助金がもらえる。
(埋葬費とか葬祭費とか、名目や給付の条件がいろいろある)
死亡届や火葬許可証、埋葬許可証を申請する時に、多分市役所の人から案内してもらえると思う。

その死亡届や埋葬許可証なども、すでに一度手続きを済ませているのに、父が、ゾンビとなって現れてしまった。
この場合、父が再び動かなくなった時、もう一度死亡届が必要なのだろうか。
しかしすでに死んでいる人に対して、いかにして「死亡した」という認定が下されるのだろうか。
どのみち埋葬はし直さなければならないだろうが、二度目の埋葬費は給付されるのだろうか。

夢の中でそんなことを考え、「困った」という感想を抱いたのだ。
「(手続きが)めんどくさいことになったな」という方が近いかもしれない。

結局夢は途中で終わったので、父を改めて看取ることもなく、二度目の葬式を出すこともなく、目が覚めてから「何だかなあ」と自分の情緒のなさにしんみりしてしまった。
亡くなった父に、夢でも会えて嬉しいとか、そうでなくてもゾンビになって怖いとか悲しいとか、その程度の思いは出てこないのか。
何だよ埋葬費またもらえるのかな困ったなって。

理由はわからないけれど、その後も五年くらい、ゾンビとなった父が年に数度の割合で夢に出てきた。
段々その割合が減っていって、最近はまったく見ていなかったはずが、つい先日、久しぶりに父が夢に出てきた。

相変わらず父は死んでいた。死んでいるが動いていた。いつもどおりゾンビだ。
本人も自分が死んでいることに気づいていて、私にも気づかれていることを把握しているが、お互いそのことには触れないまま、ぎこちなく、当たり障りなく、会話をしていた。何を話したかはよく覚えていない。

久々の夢の中で、埋葬費のことには思い至らなかったので、父が亡くなって十年経ち、気持ちの中でそこそこいろんな整理がついたのだろうな、と思った。

エッセイ

Posted by eleki